
30代の会社員、田中さんは、ずっと「何か新しいことを始めたい」と思っていました。
副業をしてみたい。
資格にも挑戦してみたい。
将来のために、今のうちから少しずつ動き出したい。
頭ではそう思っているのに、仕事が終わって家に帰ると、なぜか何もできませんでした。
特別に大きな悩みがあったわけではありません。
ただ、会社では小さなストレスが毎日のように積み重なっていました。
朝から上司の機嫌を気にする。
終わったと思った仕事に、細かい修正が入る。
同僚に頼まれた雑務を断れず、自分の仕事が後回しになる。
会議では言いたいことがあるのに、空気を読んで飲み込んでしまう。
一つひとつは、大したことではありません。
「これくらい、みんな我慢している」
「気にしすぎなのかもしれない」
田中さんも、そう自分に言い聞かせていました。
でも、その小さな我慢は、確実に頭の中に残っていました。
帰りの電車の中でも、上司のひと言を思い出す。
家に着いても、明日の仕事の段取りが頭から離れない。
夕飯を食べながらも、「あのメール、返信しておいた方がよかったかな」と考えてしまう。
気づけば、体は家に帰っているのに、頭の中はまだ会社にいるような状態でした。
机の上には、買ったまま開いていない資格の本。
スマホには、見ようと思って保存した副業の動画。
ノートには、「今年こそ始める」と書いた目標。
でも、いざ開こうとすると、心が動かないのです。
「今日は疲れたから、明日でいいか」
その繰り返しでした。
田中さんは、自分にはやる気がないのだと思っていました。
継続力がない、意志が弱い、だから新しいことができないのだと。
けれど本当は、やる気がないのではありませんでした。
毎日の小さなストレスや、気になっていることが、頭の容量を少しずつ奪っていたのです。
新しいことを始めるには、少しの余白が必要です。
考える余白、試す余白、失敗してもいいと思える余白。
田中さんには、その余白が残っていませんでした。
大きな問題ではなくても、気になっていることが積み重なると、人は前に進む力を失ってしまう。
新しい挑戦ができない理由は、怠けているからではなく、日々の小さなストレスで、心と頭がいっぱいになっているからかもしれません。